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最高裁判所第一小法廷 昭和56年(行ツ)132号 判決 1982年5月27日

埼玉県富士見市諏訪一丁目八番二〇号

上告人

荒野正光

右訴訟代理人弁護士

楠本博志

埼玉県川越市三光町三六番地

被上告人

川越税務署長

榎本勤

右指定代理人

古川悌二

右当事者間の東京高等裁判所昭和五五年(行コ)第一一九号所得税更正処分取消請求事件について、同裁判所が昭和五六年四月二七日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人楠本博志の上告理由について

本件訴えを不適法とした原審の判断は、正当として是認することができる。論旨は、違憲をいう点を含め、ひつきよう、原審と異なる独自の見解に立つて原判決の法令の解釈適用の誤りをいうものにすぎず、採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 谷口正孝 裁判官 団藤重光 裁判官 藤崎萬里 裁判官 本山亨 裁判官 中村治朗)

(昭和五六年(行ツ)第一三二号 上告人 荒野正光)

上告代理人楠本博志の上告理由

上告人は上告の理由を次のとおり主張する。

一 原審判決は、特段の事情のない限り、審査請求に対する裁決書の謄本が上告人本人に送達された日を基準として、行政事件訴訟法第一四条第四項の出訴期間を計算するものと解釈し、審査請求につき代理人が選任された場合も変りはない、と判断する。

ところで、行政事件訴訟法第一四条第四項における「裁決があつたことを知つた日」とは、通常、審査請求人方に右裁決書の謄本の送達がなされただけでは足らず、現実に本人が裁決があつたことを知つたことを要し、その日を基準として出訴期間を起算すべきものと解されるが(東京高裁昭和五一(行コ)第一一号、昭和五一年一〇月二八日判決)、これは、審査請求人に対し、熟慮期間としての三ケ月の出訴期間を実質的に保障せんとするもので、訴権を保障する憲法第三二条の趣旨に合致する。

しかして、審査請求手続において本上告代理人を代理人に選任した本件の場合においては、上告人は裁決の結果について、出訴して争うべきか否かの判断を代理人に一切委ねていたものであり、従つて、上告人に対する裁決書謄本の送達の適法性、有効性の判断とは別に、行政事件訴訟法第一四条第四項の解釈適用に当り、上告人本人が昭和五四年一二月二六日に送達を受けた右裁決書謄本を、直ちに郵送し、上告人代理人がこれを受取り「裁決のあつたことを知つた日」即ち、「昭和五四年一二月二八日」を基準とするものと解すべきであり、かく解さなければ、国税通則法第一〇七条一、二項によつて、代理人制度を設け、税務争訟等に関する不服申立の権利を実質的に保障せんとする趣旨が没却され、代理人による熟慮期間が二日間といえども短縮され、実質的には三ケ月の出訴期間が、保障されないこととなる。

二 また、原審判決は、行政事件訴訟法第一四条第四項の定める出訴期間の計算にあたり、裁決があつたことを知つた日、又はは裁決があつた日を初日とし、これを期間に算入して計算すべきものとした第一審判決を支持したが、これは次のとおり、憲法第三二条の解釈を誤つたものである。

(一) 即ち、行政事件訴訟法第一四条第四項は、審査請求を経たものについては、「裁決があつたことを知つた日……から起算する。」旨規定するが、その趣旨は同条一項の処分又は裁決につき、審査請求等適法な手続によつて救済を求められている場合にまで、同条一項の処分又は裁決のあつたことを知つた日を基準として三ケ月以内の出訴を強要し、あるいはその期間経過により形式的確定力を生ぜしめることは、審査請求の制度を設けた目的と矛盾し、不合理な結果となるところから、これを避けるため行政事件訴訟第一四条第四項の規定を設けて、審査請求に対する裁決があるまで、出訴期間が進行しないこととしたものと解すべきである。従つて、行政事件訴訟法第一四条第四項の法意は、審査請求を経た場合においては、出訴期間を、同条一四条一項の処分又は裁決のあつたことを知つた日ではなく、審査請求に対する裁決のあつたことを知つた日を基準として、それ以後、民事訴訟法を準用する行政事件訴訟法の一般的期間計算の方法によつて出訴期間の三ケ月を実質的に保障することにあるのであつて、初日を算入して訴権を制限する趣旨でないことは明らかである。

(二) ところで、期間の初日を算入しないことは人権保護の立場における大原則である。また、行政事件訴訟法七条は、民事訴訟法の準用を定めており、同法一五六条、民法一四〇条によつて、行政事件訴訟法は初日不算入を原則としているものである。そこで当然の帰結として、同法一四条一項、三項の期間計算に初日を算入せず、その翌日から計算することになり、この点については異論がなく、従つて、同法一四条四項も同様に解すべきもので、同条同項についてのみ、初日を算入しなければならない、合理的な理由は全くない。仮りに、初日を出訴期間に算入すべきものとすれば、出訴期間を三ケ月と定めて、訴権を保障せんとする同条一項の趣旨に反し、合理的理由なく訴権を制限することになる。また、行政事件訴訟法第一四条第四項と同様の法令用語である民事訴訟法四二四条四項(再審)は、初日不算入と解されており、法令用語の相対性から行政事件訴訟法一四条四項についても初日不算入と解しても何等支障がないのみならず、出訴期間に三ケ月という比較的長期間を設けながら、二四時間に満たない裁決のあつたことを知つた当日まで出訴期間の初日に算入して人民が救済を求める権利を制限して事件の急速な処理をしなければならない緊急性は全くなく、また期間計算方法の統一性を犠性にしてまで民事訴訟法の準用による行政事件訴訟法の初日不算入の原則の例外規定を特に設けなければならない重要な理由は存在しない。

(三) また、行政不服審査法一四条、同法四五条、国税通則法七七条および地方自治法一四三条四項は、いずれも「……の日の翌日から起算する。」と明定して初日不算入の原則を明らかにしている。右の各法律の規定は、行政事件訴訟法とは異り民事訴訟法の準用がないため、初日不算入を明記しなければならなかつたに過ぎないものであり、行政事件訴訟法は同法七条により、民事訴訟法の準用があるため、行政事件訴訟法一四条四項の規定の体裁に相違を生じたもので、従つて同法一四条四項の「知つた日から起算する」が「知つた日の翌日から起算する」の意であることは、同法一四条一項に「知つた日から三ケ月以内……」と規定され、「知つた日の翌日から三ケ月以内……」となつていないことからも明らかである。かく解することによつて、はじめて人権保護の立場から、訴訟を実質的に保障せんとする行政争訟に関する初日不算入の原則を貫き、請求期間の統一性、即ち、計算方法の統一性が確保される。

(四) 仮りに、初日算入を前提とすれば審査請求に対する裁決自体を争う取消訴訟に比較して裁決を経た原処分に対する取消訴訟の出訴期間が一日短くなるという甚だ不合理な不統一の結果をもたらすことになる矛盾を説明し得ないであろう。

この点について、原審判決は、もともと適法な審査請求をした者について、裁決を知つた日まで原処分に対する出訴期間を猶予することを目的とする規定であること認めながら、その猶予期間の最終日を、出訴期間三ケ月の初日に算入して、同一日を重ねて計算し、実質的に出訴期間を三ケ月より一日短縮するという矛盾するする判断を敢えてなしているため、原処分に対するものと裁決に対するものとの出訴期間が一日ずれるという、不自然・不統一な結果を合理的に説明し得ない。原審判決がいうように行政事件訴訟法一四条四項が期間計算に関する極めて技術的なものであればある程、右の不統一な解釈は、期間計算の統一性という法技術面での基本的要請とも著しく矛盾するものといわなければならない。

(五) また、憲法三二条は、国民の基本的人権としての訴権を保障しており、行政事件訴訟法の解釈適用に当り訴権の保障は最大限に尊重されなければならない。

しかして、行政事件訴訟法一四条一項は、訴権の実質的保障のため、熟慮期間として三ケ月の出訴期間を設けたものであり、このことは、同法一四条四項についても同様に解すべきであつて、仮りに、出訴期間の計算につき、初日を算入すべきものとすれば、同法一四条一項の定める出訴期間三ケ月に比して、一日未満であれ、これを短縮し、何ら合理的理由なく不意打的に訴権を制限することになり、かかる出訴人に不利益な解釈適用は憲法三二条に違反し、許されないものである。

三 以上の如く、原審および第一審の判決は、いずれも、憲法第三二条の解釈適用を誤つていることが明らかであるので、原審判決を破棄し、相当の判決を求める次第です。

以上

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